革新的なメカニズムを搭載し誕生した、デルンブルク・ヴァーゲンから歴史は始まる
1907年、この年、一台のクロスカントリー・ビークルが誕生した。その名は「デルンブルク・ヴァーゲン」。技術者出身のゴットリープ・ダイムラーと、ヴィルヘルム・マイバッハが設立、ドイツのシュトュットガルトに拠点を置いていた「ダイムラー・モトレーン・ゲゼルシャフト社」によって製作された、世界で初めての4輪駆動乗用車だ。実際の設計者は、ポール・ダイムラー、創立者の息子である。
世界初の4輪駆動乗用車「デルンブルク・ヴァーゲン」。当時、植民地相に就任したばかりのベルンハルト・デンブルク総督が、ドイツの植民地であった南西アフリカと本国間を往き来する交通手段として作らせた、特別な車であった。ドイツ〜南西アフリカという長距離走行が可能であり、また何より、未開地の続くアフリカ大陸を走り抜くだけの、スペックを持たせなければならなかった。ダイムラーは、その要求に見事に応えたのである。実はすでに1903年の時点で、4輪駆動の技術を完成させていたダイムラーだったが、それを進化させ、開発された自動車は全長4.9m、全高2.7m、トレッド1.42m、車両重量3.6トン。フルタイム4WD、4輪操舵機構を備え、シールドタイプのパワートレーンなど、今に通じる革新的な設計を形にした。作られたのは1台のみ。その後の植民地廃止と同時に、この貴重な1台は行方不明となり、幻のクロスカントリー・ビークルとなった。