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環境省令の「数値規制」はなぜ経過措置がとられることになったのか

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現在、環境省が進めている改正動物愛護法に関する環境省令の数値規制は、「悪質な事業者を排除するために、事業者に対してレッドカードを出しやすい明確な基準とする」「自治体がチェックしやすい統一的な考え方で基準を設定」「議員立法という原点と動物愛護の精神に則った基準とする」というポイントに添って進められています。一ヶ月間で約17万件ものパブリックコメントを集めるなど、関心の高い事案となっているのです。

2021年6月に施行するとして、環境省が取りまとめた数値規制案には、反対意見も含め、事業者からもさまざまな声が上がりました。より厳しい基準を求める声がある一方で、「このままでは廃業しなければならない」と基準を緩めてほしいという意見が数多く寄せられたのです。こうした意見を踏まえて環境省は、経過措置を設ける方針を昨年12月25日に開かれた有識者会議で明らかにしました。本年6月からの施行を断念したのです。

仕事柄、私の元には当初から多くの意見が届いていました。また、私自身も第1種動物取扱業者で、猫のブリーダーである立場です。そのなかで、今回の「数値規制」についてはいろいろと思うところがあり、いくつかの意見を環境省に伝えてきました。では、経過措置をとることになった背景にはどんな事情があるのでしょうか。

行き場を失くす犬や猫は13万頭になる

昨年10月30日のデイリー新潮の記事には、「廃業するブリーダーが増え、動物たちが山奥に遺棄されたり、野良犬や野良猫となって殺処分される危険性が高まる」「彼らが飼育する多数の犬や猫が行き場を失くしてしまう」「その数は13万匹になる」など、ペットショップの幹部らの数値規制に反対する声が掲載されていました。行き場を失くす犬や猫が13万匹というのは、尋常ではない驚くほどの数値です。なぜ、こんなにも多くの犬や猫が路頭に迷うと言うのか。そこには、規制のいくつかの数値が絡んでいるのです。

まず、飼育者ひとりあたりの飼育数については、繁殖用の犬は15匹、猫は25匹、販売用の犬は20匹、猫は30匹を上限としています。数値規制が6月に施行された場合、販売用の子犬や子猫は流動的な数ですから、販売しながら施行までに仕入れを少なくしていけばその数値に収まるかもしれません。

しかし、ブリーダーの場合にはそう簡単にはいきません。飼育数がその頭数を超えている場合には、超過した犬や猫の行き先を決めなければなりません。既に成犬・成猫ですから、難しい面があります。私が知っている限りでは、飼育者ひとりで小型犬を100頭以上抱えている事業者もいます。そうなれば、約85頭の犬の行先を数カ月で決める必要があります。

従業員を雇わず、ひとりでそれだけの数を飼育している時点で問題ですが、実際にそのような事業者も多数います。では、従業員を雇えばよいのではと思うかもしれませんが、規制に合わせ約85頭を飼育するには、6人の従業員を雇う必要があります。超過した犬や猫の新しい行先を決める、あるいは従業員を雇うという期間が数カ月しかないというのは、現実的に難しいと言えるでしょう。

また、ケージの大きさについても、短期間での設置は難しい面があります。例えば、運動スペース分離型の場合には、以下のように規制されます。

■寝床や休息場所となるケージ
犬:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の2倍
猫:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の3倍(棚を設け2段以上の構造とする)
※複数飼養する場合は各個体に対する上記の広さの合計面積を確保する

■運動スペース
・一体型の基準と同一以上の広さを有する運動スペースを確保し、1日3時間以上運動スペースに出し運動させることを義務付ける。
・運動スペースは常時運動に利用可能な状態で維持管理することを義務付ける。

悪徳な事業者は、狭いケージに複数頭の犬や猫を身動きができないくらいに押し込み、またそのケージを何段にも積み重ねて、ろくに運動もさせずに繁殖をしてきたわけですから、上記のような数値規制が施行された場合には、飼育スペースの確保が必須になります。

確保することができなければ、移転をするか、頭数を減らしてスペースをつくるかの選択を迫られることになります。多頭数を連れての移転は、新たな場所を決めるだけでも容易ではありません。なぜなら、鳴き声やニオイの問題などさまざまな要素が絡んでくるので、賃貸であれば余計に移転が難しくなります。

そのうえ、新たに設備を整えるとなるとかなりの費用もかかります。また、頭数を減らしてスペースを確保したとしても、超過した犬や猫の行き先を決める必要があります。それらを行う期間が数カ月しかないということは、これもまた現実的ではないと言えるでしょう。

そして、雌犬・雌猫の交配年齢や回数の上限も規制されます。この規制によって、今までよりも早期に繁殖を引退する犬や猫が出ることになります。前述の規制で超過する数に加えて、更に引退する犬や猫の数が加わるのです。

これらの規制の数値が絡んで、「行き場を失くす犬や猫が13万匹になる」と反対意見があがったわけです。言い換えれば、それだけ過酷な飼育環境で過ごしている犬や猫が多いということが露呈したのです。

大型猫種のケージサイズは現実的ではない

前述のとおり、運動スペース分離型(ケージ飼育等)のサイズの基準が提示されていますが、大型猫種に関しては、現実的ではない数値となっています。例えば、大型猫種のメインクーンは胴が長いことが特徴で、オスの場合は、体長が60㎝・体高40㎝を超える個体が存在します。その場合、基準の数値で考えるとタテ120×ヨコ90×高さ120㎝以上のケージが必要となります。しかしながら、現在、そのようなサイズを満たす猫用ケージは日本では販売されていないのです。

この規制を本年6月に施行するには、メーカーがそのようなサイズのケージを数カ月で製造し新たに販売するか、事業者が特注でケージを作成する必要があり、時間的にも、費用的にも現実的ではないのです。まして、ある程度の販売台数が見込めなければ、メーカーも新しい商品を製造することはしないでしょう。そのため、そのような大型猫種を所有する事業者たちは、「用意したくても容易に準備できない」と頭を抱えているのです。

事業者の中でも健全なブリーダーの場合は、家全体あるいは各部屋に放し飼いをしていて、大きな問題とは感じていませんが、隔離が必要な場合(疾病時、新しい猫を迎えたとき、交配をスキップするときなど)にはケージが必要です。一時的にケージで飼育する場合にも同じ規制がかかるのであれば、同様の困惑となります。もちろん、ケージのサイズが大きいに越したことはないのですが、現実的な数値でなければ、確実に実行させることも難しいことでしょう。

どのような経過措置がとられるのか

環境省は、昨年12月25日の有識者会議で「経過措置は、事業者によって犬や猫が遺棄をされたり、殺処分をされたりというのを防ぐのが目的。また、事業者が従業員を新たに確保するには、ある程度の期間が必要なため」と、その意図を説明しました。

飼育者ひとりあたりの飼育数については、繁殖用の犬は25匹、猫は35匹、販売用の犬は30匹、猫は40匹と緩めの上限を定めて、2022年6月から毎年段階的に5匹ずつ減らし、完全施行されるのは2024年6月となります。また、ケージの広さを計算式などで定める規制と雌犬・雌猫の交配年齢や回数を定める規制は、1年先送りで施行されることになります。前述した事情を考慮すれば、この経過措置は必然だったと考えます。

悪徳な事業者は時代錯誤に気付く必要がある

経過措置がとられたとはいえ、2024年6月にはすべての定められた数値規制が完全施行されます。ですから、事業者はそれまでに責任を持って対応していくことになります。しかし、そこには「完全施行を3年も遅らせるのは、犬や猫にその分だけ負担を強いることになる」「経過措置は必要ない」という声もあります。劣悪な飼育環境に置かれている多くの犬や猫のことを考えれば、その通りだと思います。

しかし、私はこの経過措置にはさまざまな意図が含まれていると考えています。いまや犬や猫などのペットは「家族の一員」です。犬でいえば、番犬として庭に鎖で繋いだままでいるのが当たり前の時代ではありません。飼い主と同じ家のなかで暮らし、栄養価の高いフードを食べて、旅行にも一緒に行きます。病気になれば高度な治療をしてもらい、医療保険をかけてもらい、介護をしてもらい、高額なお葬式をしてもらい、お墓まで用意してもらう時代です。

動物愛護の精神も広がっているこの時代に、悪徳な事業者たちの犬や猫への扱いがまかり通ることはないのです。それが今回の「数値規制」に繋がっているのだということに気が付かなければなりません。廃業する、しないに関わらず、悪徳な事業者に、時代錯誤の考えを改めてもらい、自らの責任で行動してもらうためにも必要な時間なのではないでしょうか。

犬や猫などの「命」を扱うのであれば、「数値規制」がなくても、事業者自らが動物愛護の精神を持ち、健全な道を進むことが本来の姿です。しかし、前述の「廃業するブリーダーが増え、動物たちが山奥に遺棄されたり、野良犬や野良猫となって殺処分されたりする危険性が高まる」「彼らが飼育する多数の犬や猫が行き場を失くしてしまう」という言いぐさからもわかるように、犬や猫を「商品」としてしか見ていない事業者も多くいます。

なぜ「遺棄」「殺処分」「行き場を失くす」という言葉がでてくるのでしょうか。なぜ超過してしまった犬や猫を自ら最後まで飼う、あるいは新しい行き先を探すことを考えないのでしょうか。なぜペット業界の主要企業や業界団体が、そのことを事業者に指導しないのでしょうか。動物愛護団体・保護団体(引き取り屋が形を変えた団体も増えているが)などに渡すことで、それを善い行いのように考えているようですが、その行為が責任転嫁であり、必要のない負担をかけているということに、なぜ気付かないのでしょうか。

環境省が提示した経過措置は、事業者に対し「責任を持ってそれぞれの数値規制に対応し、超過した犬や猫を遺棄・殺処分することなく、自ら新しい行き先を見つけること。十分な経過措置期間を設けたのだから、必ず期限内に達成しなさい」という意味だと考えます。

健全な事業者にとっては、大きな問題ではないでしょう。しかし、悪徳な事業者は事業を継続したいのであれば、この期間に時代錯誤の考えを改め、動物愛護の精神を持ち、真摯に取り組む必要があります。考え方や行動が時代の流れにそぐわないままであれば、廃業するしか道はないでしょう。

まとめ

環境省に寄せられたパブリックコメントには、事業者からのコメントも多かったと聞きました。前述のような「数値規制」に反対する声はもちろんですが、それぞれの数値を決める際の根拠や考え方に対して、「実際の繁殖とはそんなものではない」という声も多かったのではないでしょうか。

実際、私の元には多くの健全なブリーダーから、同様の意見が届いていました。私も事業者の立場で毎回の有識者会議の内容や資料等を見ていると、疑問に思うことや、繁殖の実態とは違うと感じることが多々ありました。日本はもとより、世界において犬や猫の繁殖に関わる研究や文献は少なく、実態については、実際に関わっているものでなければわからないことが多いのです。

しかし、今回の有識者会議のなかには、そのような当事者は含まれていません。もちろん、学術的な意見を聞き、そのうえで数値を考えていくことは必要だと思いますが、それは実態を踏まえたうえでの設定が必要です。繁殖とはつねに想定外と隣り合わせであり、マニュアル通りにはいかないものです。実際に経験を積まなければわからないことが多々あるのです。

数件の事業者の実態調査だけでなく、すべての事業者にアンケート調査をする実施する必要があったのではないでしょうか。そのなかから、健全な考えを持つ事業者の意見を吸い上げ、学術的な意見とともに検討し、実態にあった数値を検討する必要があったと感じています。そうでなければ、繁殖に携わる健全な事業者が、日々努力をしながら築いてきた「犬種・猫種の保存」を、その規制によって少なからず崩壊させてしまうことになるからです。

今後、「数値規制」に則した基準の詳細が決められます。パブリックコメントに寄せられた健全な事業者たちの意見が、少しでも反映されることを願います。また、その規制が守られるよう、「監視の目」が構築されることを願います。そして、悪徳な事業者が1人でも多く時代錯誤の考えを改め、健全な道へと進むことを願ってやみません。

環境省令の大きな目的は、悪徳な事業者の排除です。しかしながら、施行の経過措置を講じたのは、犬や猫の命を守ることを補完すると共に、この期間に事業者を含むペット業界全体が変わらなければならないことを示唆していると考えます。

多くの人々が望んでいる「人と動物との幸せな共生」の実現のためには、まず、事業者一人一人がその本質をしっかりと認識し、人として、事業者として「命」に愛情と責任を持ちながら、向き合っていくことが大切でしょう。そして、それを飼い主となる方々に啓蒙していくのが、事業者としての大きな役割なのではないでしょうか。。

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