「原初のグリーン」をまとう、BMWきってのカルトカー
2020年以来の新型コロナ禍により、自動車オークション業界ではネット上のみで出品・入札するオンライン形式のオークションが大流行。パンデミックに一応の収束が見られる現在でも、その利便性から数多くのオークション会社が対面型オークションと並行して継続しているようです。2024年6月14〜18日、名門ボナムズ・オークション社がベルギーを拠点に開催した、その名も「ONLINE」オークションでは、そのカルト的な魅力から近年とみに評価を上げているBMW「Z1」が出品されました。今回はそのモデル概要と、注目のオークション結果についてお伝えします。
実験車から転じて量産された、史上初のBMW「Z」とは?
BMWのモデルラインアップにおいて、約四半世紀にわたって異彩を放つロードスター「Zシリーズ」は、いずれも強い個性がバックボーンとなってきた。
「Z」のシリーズ名は「Zukunft(ドイツ語で未来の意)」の頭文字ともいわれているが、その称号に最もふさわしいのは、間違いなく開祖にして車名の由来である「Z1」。そのアピアランスは、最初に発売されてから30年を経た今となってもモダンで、依然として未来的とさえ断言できるだろう。
1987年のフランクフルト・ショーで発表、2年後の1989年から正式に発売されたZ1は、骨格を成すインナーモノコックに樹脂製のボディパネルを組み合わせるという特異な構造の持ち主。外皮なしでも走行可能な亜鉛メッキ鋼製インナーモノコックはシーム溶接され、ボディの硬度は通常のモノコックに比べて25%のアップを得た。
その結果、当時のオープンカーとしては信じがたいほどの剛性を確保。オープンモデルには付きもののスカットルシェイクを追放するとともに、素晴らしいハンドリングも確保するに至る。
脱着可能なサイドパネルとドアは、北米ゼネラル・エレクトリック社の「ゼノイ・インジェクションキャスト」熱可塑性プラスティック製で、ボンネットとトランクリッドはグラスファイバー樹脂製。全身を柔軟性のある特別なラッカーでペイントするという、かなり実験的なボディワークとされていた。
Z1に込められた最先端の思想は、のちにポルシェで「ボクスター」や「996」を手がけるハーム・ラガーイ氏が主導したとされるデザインワークの、あらゆる側面において明らかだった。中でもこのモデルのアイコンとなっているのが、英語圏での愛称「Drop-Door」の由来となっている昇降式ドアである。
ドアを下ろした状態のままでも走らせることができた
深いサイドシルに収納する構造の革新的な電動ドアは、サイドウインドウとドアの双方を連携させるコッグドベルトを、ボタン操作によって作動させる。ソフトトップの開閉およびサイドウインドウの開閉にくわえて、ドアを下ろした状態のままでも走らせることができることから、すべてを開いた状態ではまるで四輪のモーターサイクルのような開放感が満喫できると評価されていた。
サスペンションも新機軸が実験され、リアにはBMW初のマルチリンク式サスペンションである「Zアクスル」が採用された。また、乱気流とリフトを減らすことを目的としたエアロフォイル型の横置きリアサイレンサーや、ダウンフォースを誘発するために車輪の前に高圧ゾーンを作成するよう設計されているノーズ周辺、そして複合材製のアンダートレー型フロアなど、巧妙なエアロダイナミクスも盛り込まれていた。
いっぽうパワーユニットは、E30系「325i」から流用された「M20B25」型。ゲトラグ社製の5速MTも3シリーズからの流用である。0-100km/hまで加速タイム7.9秒で、最高速度225km/hと、なかなかの高性能車であった。
かなり実験的な要素が強いモデルゆえに、生産開始までに2年近い期間を要したにもかかわらず、実質的な生産期間は約2年。生産台数も約8000台に終わってしまう。
それでも、Z1の残したインパクトは小さくはなかったようで、そののちBMWから登場する2座席ロードスターには、あまねく「Z」の名が与えられることになるのだ。
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BMW「Z1」が約640万円で落札…相場の半額となった理由とは? いま手に入れておきたいカルトカーは、実験的要素が満載でした