300SLのスペシャリストにレストアされた個体
2024年5月31日〜6月1日にRMサザビーズがカナダ・トロントで開催したオークションにおいてメルセデス・ベンツ「300SL」が出品されました。アメリカに納入された同車は当初、ボディカラーが赤、内装は黒の組み合わせで過ごしていましたが、数人のオーナーを経てフルレストアされたのち、シルバーに塗り替えられました。シャシーとエンジンのナンバーはマッチ確認済みの魅力的な1台です。
1954年にデビューした300SL
スーパーカーなどという言葉がまだ存在しなかった1950年代に誕生した、まさしくスーパーカーそのものだった存在が、メルセデス・ベンツ「300SL」だろう。一般的に元祖スーパーカーはランボルギーニ「ミウラ」ということが定説のようだが、ミウラと大きく違うのは、このクルマが半ばレーシングカーを公道に引っ張り出した元祖的な存在だったことである。
量産の300SLが誕生したのは1954年のこと。しかし実際に300SLという名称が世に飛び出したのは1952年のことであった。同年1月19日、ドイツの自動車雑誌『アウト・モーター・ウント・シュポルト』がスクープしたのがきっかけだ。その当時の名称は「300S」。その後車名は「300SS」に変わり、最終的には「300SL」の名で登場する。
300SLは1952年のモンツァでレースデビューを迎えた。つまりコードネーム「W194」と呼ばれた300SLは、純粋にレーシングカーとして誕生したのである。当時のエンジンは直列6気筒2996ccとスペックは同じながら、実際に市販された量産モデルとは異なり3基のソレックス40PBJCキャブレターを装着したものであった。
このレースで幸先よく2位と4位を獲得したメルセデスは同年6月のル・マン24時間に5台のW194(うち2台はスペアカー)と、40人ものメカニックを引き連れてやってきた。ライバルは4.1L V12を搭載するフェラーリやアストンマーティン、ジャガー「Cタイプ」、さらにはアメリカからやってきたカニンガム「C4-R」など、少なくともパフォーマンスの上ではメルセデスを凌駕するマシンがズラリと並んだのだが、小排気量にもかかわらず高い耐久性を見せた300SLは見事1-2フィニッシュ。そしてこの年のカレラ・パナメリカーナでも同じく1-2フィニッシュを達成した。
ドイツ人が「Fluegel Tuellen(ウイングドア)」と呼んだ独特のドアは、アメリカ人によって「ガルウイング」と呼ばれて一般化したが、当時のレースでチューブラースペースフレームの剛性確保とドア開口部のレギュレーションを満たすうえでは最もエレガントな解決策と言われていた。
当時考えうる最も高度に進化したエンジン
その後、300SLは市販化に向けて本格的な開発がスタート(市販モデルは「W198」のコードネームを持つ)。エンジンはキャブレターから直噴のボッシュ製機械式燃料噴射に変更。ドライサンプの潤滑方式と相まって、当時としては考えうる最も高度に進化したエンジンに仕上がった。そして鋼管スペースフレームもまさにレーシングカーから直接受け継いだものだから、やはり量産車とはいえ成り立ちはレーシングカーに近い。
とはいえさすがに乗降は不便である。第一にドアがスペースフレームに邪魔されて、シート座面よりも高い位置までしか開かない。それに敷居、すなわちサイドシルの幅が広いので、ドライバーは横向きになってまずは座面に腰を下ろす。すると今度は足を室内に引き込む際にステアリングが邪魔になる。幸い300SLはそのためにステアリングそのものがドライバー側に倒れ込むギミックが装備されているので、まずはステアリングを手前に倒してから乗り込む。
直噴3L直6エンジンのパフォーマンスはやはり当時としては衝撃的だったようで、3500rpmから4000rpm付近でアクセルに力をこめるとまるでロケットに乗っている感覚だったと、当時のイギリス自動車雑誌『Autocar』は記している。また2速のトップスピードは70マイル(112.6km/h)に達し、100マイル(160.9km/h)を超えてもまだその加速が緩むことはなかったというから、まさにスーパーカーの領域だったのである。
>>>メルセデスの専門誌「only Mercedes」のvol.220を読みたい人はこちら(外部サイト)
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「ミウラ」以前のスーパーカーは約2億6000万円で落札! 歴代オーナーの素性がはっきりしたメルセデス・ベンツ「300SL」は高値安定です