愛犬や愛猫が以前より歩きたがらなくなったり、ソファに飛び乗るのをためらったりする。そんな姿を見て、「もう年だから仕方ない」と、少し切ない気持ちで受け入れてしまうことは少なくありません。関節の痛みやこわばりは、「できるだけ安静にさせるのが一番」と信じられてきました。
しかし近年、人間の医療研究は、この“安静神話”に静かですが根本的な変革を迫っています。そして、その新しい知見は、私たちの大切な家族である犬や猫の関節ケアにも明るい光を投げかけています。鍵となるのは、「安静」とは正反対の概念――すなわち「運動」です。

これまで変形性関節症は、長年の使用によって関節の軟骨がすり減ってしまう“摩耗の結果”と考えられてきました。車のタイヤが走り続けて摩耗するように、関節も使えば劣化する――そう理解されてきたのです。この考え方に立てば、「動かすほど悪化する」として安静が推奨されるのも当然でしょう。
しかし最新の科学は、関節が単なる機械的構造ではないことを示しています。関節の表面を覆う軟骨は血管を持たない特殊な組織で、血流から直接栄養を受け取ることができません。その代わり、関節の動きによって生じる圧力の変化を利用し、スポンジのように栄養を取り込んでいます。
歩いたり走ったりして関節に体重がかかると、軟骨内の古い関節液が押し出され、体重が抜けると新鮮で栄養豊富な関節液が吸い込まれるのです。この「滑液ポンプ」と呼ばれる仕組みこそ、軟骨の健康を保つ生命線なのです。つまり、「動かすこと」自体が軟骨の栄養循環を維持する“自然のリハビリ”といえます。
この視点から見ると、変形性関節症は単なる摩耗ではなく、「摩耗と修復のバランスが崩れた状態」として捉えるのがより正確です。適度な運動は、この修復プロセスを促進し、関節全体の健康維持に欠かせない要素です。
この原則は、人間だけでなく、同じ哺乳類である犬や猫にも当てはまります。痛みを抱える愛犬や愛猫を無理に動かすべきではありませんが、痛みのない範囲で適切に管理された運動は、症状の進行を遅らせ、生活の質(QOL)を維持するための“最良の薬”となり得ます。
運動がもたらす恩恵は、軟骨への栄養補給だけにとどまりません。関節を取り囲む筋肉は、関節にかかる衝撃を吸収し、安定を保つ「天然のサポーター」として機能します。しかし、痛みを恐れて動かなくなると、筋肉は驚くほど早く衰えます。筋力が落ちれば関節の支えが弱まり、不安定になった関節がさらに損傷を受ける――。これが“安静の悪循環”です。
実際、筋力の低下は変形性関節症の初期兆候の一つであり、進行を早めるリスク因子とされています。したがって、痛みを適切にコントロールしつつ筋力を維持・向上させることが、関節ケアの要となります。
さらに、現代の犬や猫におけるもう一つのリスク要因が「肥満」です。体重が増えれば関節への物理的な負荷が増すのは当然ですが、それだけではありません。
近年の研究で、脂肪組織は単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、炎症性物質を分泌する“内分泌器官”であることがわかってきました。過剰な脂肪細胞は「アディポカイン」と呼ばれる物質を放出し、全身の慢性炎症を引き起こします。この炎症が関節を刺激し、痛みや腫れを悪化させるのです。
適度な運動は、カロリーを消費して体重を減らすだけでなく、アディポカインの分泌を抑え、炎症を分子レベルで鎮める効果もあります。つまり、運動は「関節を動かす」こと以上に、「体全体の炎症環境を整える治療」でもあるのです。
では、どのような運動が理想的なのでしょうか。まずは正確な診断が前提ですが、犬の場合、リードをつけたゆっくりとした散歩が基本です。急なダッシュやジャンプ、激しいボール遊びは避け、規則的で負担の少ない運動を心がけましょう。
また、水の浮力を利用して関節への負担を軽減する「ハイドロセラピー(水中運動)」は、リハビリテーションで高く評価されています。泳ぎが苦手な犬でも、水中トレッドミルなどの設備を利用すれば安全に運動できます。
運動療法を支えるために、薬物治療が併用されることもあります。代表的なのは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で、痛みと炎症の緩和に効果的です。さらに近年では、神経成長因子(NGF)を標的とするモノクローナル抗体製剤が登場し、より精密な疼痛管理が可能になっています。こうした治療が、犬や猫が快適に体を動かせる環境を支える重要な柱となります。
一方、猫の変形性関節症は「静かな病気」と呼ばれます。犬のように明確な跛行が見られにくく、飼い主が気づきにくいのが特徴です。次のような変化が見られたら、関節痛のサインかもしれません。
遊ぶ時間や回数が減った
キャットタワーの上段に登らなくなった
ソファやベッドへの乗り降りをためらう
グルーミングの頻度が減り、毛並みが乱れている
トイレの縁をまたぐのを嫌がる
猫の場合は、生活環境を整えることが何より大切です。滑りやすい床にはカーペットやマットを敷き、キャットタワーの段差を緩やかにするステップを追加しましょう。食事や水、トイレも、移動距離や高さを減らしてアクセスしやすい位置に配置します。
また、猫じゃらしなどで、無理のない範囲で床上を追いかける遊びを取り入れると、関節の柔軟性と筋力維持に役立ちます。
愛犬や愛猫の動きに変化が見られたとき、それを単なる「老化」と片づけるのは早計です。その背後には、科学的アプローチで緩和できる痛みが隠れているかもしれません。もちろん、自己判断で運動を始めるのは避け、まずは獣医師に相談して正確な診断を受けることが大前提です。そのうえで、「運動は関節の健康を支える重要な要素である」という認識を持つことで、獣医師との対話もより建設的になります。
私たちは、愛犬や愛猫の痛みをただ見守るだけではなく、生活環境を整え、日々の運動を適切に行うことで導く“伴走者”になれる存在です。関節ケアの常識が変わりつつある今、私たち飼い主の意識の変革こそが、愛する家族の穏やかで快適な毎日を守る最も力強い一歩となるでしょう。
元の投稿: 犬や猫とハッピーに暮らすための情報と最新ペットニュース - ペトハピ [Pet×Happy]
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