名前を呼んでも無視する、他の犬にまったく興味を示さない……。「私のしつけが悪いのだろうか」と悩んでいませんか。実はその行動、単なる問題行動ではなく「神経多様性(ニューロダイバーシティ)」という脳の特性が影響しているのかもしれません。
近年の獣医学では、人間と同様に犬にも生まれつき感覚や認知の特性が異なる個体がいることが分かってきました。この記事では、自閉症に似た特徴を示す犬の正体と、その「個性」を尊重しながら無理なく暮らすためのヒントを紹介します。

犬にも「自閉症」は存在する?
「うちの子、自閉症なの?」と不安に思う飼い主は少なくありません。しかし現時点では、犬に人間の自閉スペクトラム症(ASD)と同じ診断基準はありません。ただし、専門家の間では「犬の機能不全行動(CDB)」などの概念を用い、ASDと類似した特徴を示す状態が議論されています。
自閉症のような行動特性とは
と獣医学的評価を組み合わせて判断します。近年の研究では、一部の犬の行動が人間のASDの特徴と驚くほど似ていることが報告されています。
科学が示す類似点:ブルテリアの研究
2011年に行われたブルテリアを対象とした研究は、この分野で重要な示唆を与えています。自分の尻尾を執拗に追いかける「追尾行動」をする犬とそうでない犬を比較した結果、追尾行動をする犬は周囲への反応が乏しく、トランス状態のようになる傾向があり、オスに多いという特徴も確認されました。こうした傾向は 人間のASDに見られる反復行動や疫学的特徴と類似 しており、遺伝的な関連性も示唆されています。
ミラーニューロンの働きと社会性
脳科学では「ミラーニューロン」の働きが関係している可能性も考えられています。ミラーニューロンは共感や模倣に関わる神経細胞であり、犬でも同様の神経機構があるとされますが、その機能不全についてはあくまで仮説の段階です。
もし生まれつきその働きが弱い場合、飼い主の感情の変化を読み取ったり、他の犬の遊びの合図を理解したりすることが苦手かもしれません。つまり、「呼んでも無視する」のは反抗ではなく、社会的な合図の処理が得意ではないだけという可能性もあります。
もしかして? 犬の神経多様性チェックリスト
愛犬の行動が「単なる性格」なのか、それとも「神経多様性」によるものなのか。その傾向を知るための観察ポイントをまとめました。 ※これは診断ツールではありません。あくまで愛犬の特性を理解するための目安としてください
社会的相互作用の違い
多くの犬が喜ぶコミュニケーションに対して、異なる反応を示します。
視線を合わせない:覗き込んでも不自然に視線をそらす
他の犬への無関心:ドッグランでも周囲に注意を払わない
接触の拒否:撫でると体を硬くする、または無反応
感情共有の薄さ:帰宅しても喜びが控えめ、反応が淡い
反復行動・こだわり
特定の行動や手順に対して、強いこだわりを見せます。
反復運動:同じ場所をぐるぐる歩く、見えないものを追う
物の配置への執着:おもちゃを整列させるなど独特の遊び
変化への抵抗:散歩コースや家具の配置の変化で動けなくなる
感覚過敏・鈍麻
五感からの刺激に対して、極端な反応を示します。
音への恐怖:特定の電子音や環境音に強く怯える
触覚の過敏:特定の床材を歩くのを極端に嫌がる
痛覚の鈍麻:怪我をしていても痛がらない、または逆に過敏すぎる
「ADHD」や「分離不安」との違いとは?
犬の行動問題としてよく知られる「ADHD(注意欠如・多動症)」や「分離不安」と、自閉症的な傾向はどう違うのでしょうか。
ADHD(多動・衝動性)との違い
ADHDの主な特徴は「落ち着きがない」「衝動的に動く」「集中力が続かない」ことであり、周囲の刺激に過剰に反応してしまう状態です。一方、自閉症傾向のある犬は、逆に周囲への関心が薄く、自分の世界に没入しているように見えるのが特徴です。
分離不安との違い
分離不安は、飼い主と離れることへの極度の不安が原因であり、飼い主がいれば落ち着く場合がほとんどです。対して自閉症傾向のある犬は、飼い主の有無に関わらず特定の反復行動を行ったり、過度な接触を嫌がったりします。
重要なのは「病気」の除外
最も重要なことは、これらの行動が身体的な病気によるものではないか確認することです。脳腫瘍やてんかんなどの神経疾患、高齢犬の認知症、あるいは痛みがある場合も似た行動をとることがあります。「性格だ」と決めつける前に、動物病院で身体的な異常がないかを確認することが不可欠です。

【実践編】「ニューロダイバーシティ」な愛犬と幸せに暮らす5つのヒント
もし愛犬に自閉症のような傾向があったとしても、悲観する必要はありません。それは「治すべき障害」ではなく「配慮すべき個性」です。愛犬の世界を理解し、環境を整えることで、驚くほど落ち着いて生活できるようになります。
①鉄壁の「ルーティン」を作る
変化が苦手な彼らにとって、「次に何が起こるか予測できる」ことは最大の安心材料です。食事、散歩、遊びの時間を可能な限り毎日同じにし、散歩の準備手順なども統一しましょう。突発的なイベントを減らし、予測可能な生活リズムを作ることで、犬の脳にかかるストレスを大幅に軽減できます。
②感覚刺激をコントロールする
愛犬が何に対して「過敏」なのかを観察し、その刺激を減らす工夫が必要です。大きな音が苦手ならテレビの音量を下げたり、散歩は静かな時間帯を選んだりしましょう。また、部屋の隅やクレートの中など、周囲から遮断されて静かに過ごせる「セーフスペース(隠れ家)」を作り、そこにいる時は絶対に邪魔しないというルールを家族で徹底することも大切です。
③コミュニケーションの「距離感」を見直す
「犬は撫でられるのが好き」「目を見て話すのが愛情」という一般論が通じない場合があります。無理に触れたり見つめたりせず、同じ部屋で別々に過ごす「パラレルプレイ」を取り入れてみてください。「干渉されないけれど、そばにいる」という程よい距離感が、彼らにとっての信頼と安心の証になることがあります。
④無理な「社会化」を避ける勇気を持つ
「他の犬と仲良くさせなきゃ」というプレッシャーは捨てましょう。ドッグランや知らない人が苦手なら、無理に接触させる必要はありません。愛犬が不快や恐怖を感じる状況を避けることは、決して「逃げ」ではなく、飼い主にしかできない「守る」という立派な愛情表現です。その子のペースを尊重してあげてください。
⑤ポジティブ強化と忍耐
彼らは、叱られても「なぜ怒られているのか」を理解するのが苦手な場合があります。叱責は恐怖心を植え付けるだけで、行動改善にはつながりにくいのです。落ち着いている時や好ましい行動をしたら、静かにおやつを与えて褒めてあげましょう。複雑なことは求めず、スモールステップで肯定していく忍耐強さが鍵となります。
専門家の力を借りるタイミング
家庭での工夫だけでは改善が見られず、愛犬が常に不安そうだったり、自傷行為や攻撃行動が見られたりする場合は、専門家の介入が必要です。
「行動診療科」の受診を検討する
一般的なドッグトレーナーではなく、専門知識を持つ「獣医行動診療科認定医」や、動物行動学に詳しい獣医師に相談することをお勧めします。彼らは、脳の機能に基づいた診断と、科学的なアプローチによるアドバイスを行うことができます。
薬物療法という選択肢
専門家の判断により、不安を和らげる薬が処方されることもあります。「犬に精神薬なんて」と抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、薬によって脳内の神経伝達物質のバランスが整うことで恐怖心が薄れ、生活の質(QOL)が劇的に改善するケースは多々あります。薬は「性格を変える」ものではなく、愛犬が本来持っている「穏やかな時間」を取り戻すための有効なツールの一つです。
まとめ
「普通の犬」と違う反応を見せても、それは愛情が薄いのではなく、愛情の感じ方や表現が少し独特なだけかもしれません。
今日から「しつけ」ではなく「観察」の目で愛犬を見てみませんか。「この子はこういう子」と神経多様性を受け入れた瞬間、不安やイライラは減り、穏やかな信頼関係が築けます。
愛犬のユニークな世界を尊重し、寄り添うことこそが、私たちにできる最高のケアなのです。
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犬にも「自閉症」はあるの? 神経多様性から考える、愛犬の不可解な行動の正体
