愛犬の健康を願うあまり、ドッグフード(ドライフード)に不信感を持ち、手づくり食へ切り替える飼い主さんが増えています。
「保存料や添加物が心配」「加工食品よりも、自分の目で選んだ新鮮な食材を与えたい」など、そのような動機は間違いなく深い愛情から生まれたものです。キッチンに立ち、食材を切り、煮込み、愛犬のために用意する時間は、飼い主にとって幸福なひとときでもあります。
しかし、その「愛情」が愛犬の体を静かに確実に蝕んでいるとしたらどうでしょうか。
米国の獣医学誌に掲載された最新研究は、私たちが抱いてきた「手づくり=体によい」という常識を大きく揺るがすものでした。今回は、愛情の陰に潜む栄養学的リスクと、飼い主が持つべき責任を深く見つめ直します。

米国獣医学誌が示した「94%の不合格」という現実
米獣医学術誌『American Journal of Veterinary Research』に、Dog Aging Project(ドッグ・エイジング・プロジェクト)の研究チームによる衝撃的な論文が掲載されました。
テキサスA&M大学やバージニア・メリーランド獣医大学などの研究者からなる研究チームは、実際に飼い主が家庭で与えている“手づくりごはん”1,726件を詳細に分析しました。それらは机上のレシピではなく、実際に家庭で与えられている「現実の食事」です。
その分析結果は、手づくり派の飼い主にとってあまりに厳しい現実を突きつけるものでした。
☞94%の食事で、必須栄養素が少なくとも1つ以上不足
☞多くの例で複数の微量栄養素が慢性的に欠乏
☞「いろいろな食材を使えば自然とバランスが整う」という俗説はデータにより否定
つまり、どれほど愛情を込めていても、自己流の手づくり食を与えられている犬のほとんどが、栄養学的には「欠陥のある食事」を摂っていることが明らかになったのです。
ネット情報のうのみは危険。「監修者」の肩書きの落とし穴
手づくり食を始める多くの飼い主が、SNS・ブログ・レシピ本を参考にしています。しかし、ここには見過ごされがちな誤解が潜んでいます。
「専門家」の定義は思ったより曖昧
「獣医師監修」「専門家のレシピ」と書かれていても、その監修者が獣医栄養学の専門医(Board Certified Veterinary Nutritionist)とは限りません。専門医は日本国内でも非常に少なく、病気に合わせた食事設計やAAFCO・FEDIAF基準を満たす計算を行える立場とは別です。
一般的に見かける「ペット栄養管理士」などの資格は、栄養の基礎知識を認定するものであり、病気の治療レベルでのレシピ設計や、AAFCOやFEDIAF基準を満たす精密な計算ができるスペシャリストではありません。
「本に書いてあるから」「獣医師が監修しているから」といって、その情報が愛犬の生涯の健康を支える完全食であるとは限らないのです。
「おいしさや彩り」と「栄養」は別問題
SNSや書籍に載るレシピは、食べつきや向上や薬膳といった東洋医学的アプローチ、見た目の彩りを重視する傾向があります。これらは素晴らしい要素ですが、科学的な栄養基準(AAFCOやFEDIAF)を厳密に満たすことよりも優先されているケースが少なくありません。
「鶏肉と彩り野菜の煮込み」は美味しそうですが、それだけで犬に必要な数十種類の栄養素を満たすことは、栄養学的に不可能です。
なぜ“手づくり”は失敗するのか? 人間と犬の決定的な違い
なぜ、これほどまでに失敗率が高いのでしょうか。最大の要因は、私たちが無意識のうちに陥っている「擬人化の罠」にあります。
私たちは、人間にとって健康的な食事(野菜多め・自然素材・薄味など)をそのまま犬に当てはめてしまいがちです。しかし、犬という動物の生理学においては、人間の「ヘルシー」は必ずしも正解ではありません。
ミネラルバランスがまったく違う
人間は雑食性が強く、ある程度アバウトな食生活でも体内の恒常性を保つことができますが、犬は違います。特にカルシウムとリンのバランスは生命維持の基盤です。
肉類はリンを多く含みますが、カルシウムはほとんど含まれていません。肉中心の手づくり食を続けると、リンの過剰摂取とカルシウム不足により、体は骨を溶かして血中のカルシウム濃度を保とうとします。これが「栄養性二次性上皮小体機能亢進症」などを引き起こし、骨折や骨の変形、腎臓への深刻な負担へとつながります。
食材だけでは補えない微量栄養素が多い
今回の研究でも特に不足が指摘されたのは、亜鉛やコリン、ビタミンD、ビタミンEといった栄養素です。これらは、スーパーで売っている肉や野菜をただ煮込んだだけでは、必要量を満たすことが極めて困難です。
「自然派」の幻想と、誤解されがちな“フレッシュフード”
近年、インターネットやSNSでは「ドッグフードは危険」「添加物は悪」といった極端な主張が散見されます。確かに、過去には一部の劣悪なフードによる事故もありました。しかし、それを理由にすべての市販フードを否定し、科学的根拠のない「手づくり」に走るのは危険です。
「自然なものが一番」という思想は、耳触りが良く、飼い主の自尊心を満たします。しかし、犬にとって必要なのは“自然に見えること”ではなく、“栄養学的に完全であるかどうか”です。
流行の「フレッシュフード」は手づくりとは別物
現在流行している「フレッシュフード」は見た目は手づくり風ですが、信頼できるメーカーの製品は、獣医師や栄養学の専門家がレシピを設計し、新鮮な食材を使用しつつも、食材だけでは不足する栄養素を適切に補完した総合栄養食です。
つまり、「手づくりのおいしさ」と「ドライフードの栄養学的完全性」をテクノロジーで融合させたものが、現代のフレッシュフードなのです。
ただし、すべての製品がそうではありません。市場には、栄養添加をしていない「一般食(おかず・トッピング用)」も混在しています。これを「体によさそうだから」と主食として続けると、家庭での手づくり食と同じく栄養不足に陥ります。パッケージ裏面の「総合栄養食」という文字を確認することが、愛犬の健康を守る第一歩です。

「見えない飢餓」が愛犬の体をむしばむ
恐ろしいのは、これらの栄養不足がすぐには現れないことです。
カロリー自体は足りているため、愛犬は痩せることもなく、元気に完食するでしょう。毛並みもすぐには悪くなりません。しかし、体内では静かに「欠乏」が進行しているのです。
数カ月~数年という単位で微量栄養素の欠乏が続いた結果、ある日突然、原因不明の体調不良や免疫力の低下、骨格の異常、あるいは心疾患として表面化します。
そのときになって「毎日手づくりごはんを食べていたのに、なぜ?」と嘆いても、失われた健康を取り戻すのは簡単ではありません。
飼い主の「自己満足」を超えて
私たちは自問しなければなりません。
その手づくり食は、本当に愛犬のためになっているか?
それとも、手間をかけている自分に満足しているだけなのか?
Dog Aging Projectのデータが示すのは、愛情とは“気持ち”だけではなく、対象を正しく理解し、必要な知識を学び、命を守るための行動を選ぶことだという現実です。
賢明な飼い主が選ぶべき「第三の道」
手づくり食を全否定する必要はありません。アレルギーや特定の疾患により、市販のフードが合わない子にとって、手づくり食は命綱になることもあります。
重要なのは、自己流をやめることです。賢明な飼い主は以下のいずれかの方法を選択しています。
【総合栄養食のフレッシュフードを活用】
見た目は手づくりでも、中身は科学的に管理された製品(AAFCOやFEDIAF基準)を選ぶ。これはもっとも手軽で安全な選択肢です。
【サプリメントで不足を補う】
手づくり食を行う場合は、自己判断ではなく、総合栄養食化パウダーなどのサプリメントを使用し、不足する微量栄養素を確実に補填する。
【高品質なドライフードをベースにする】
主食は高品質な総合栄養食とし、手づくりはトッピングなどを楽しむ範囲にとどめる。もっとも現実的で再現性が高い方法。
愛犬は、自分で食事を選ぶことができません。出されたものを信じて食べるしかないのです。その信頼に答えるために必要なのは、情熱だけではなく、冷静な知識と科学への敬意です。それこそが、真に“賢い飼い主”の愛情と言えるでしょう。
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手づくり食は94%が栄養不足? 最新研究が示す“危険な落とし穴”
