医療の進歩や完全室内飼育が当たり前になった今、猫たちの寿命は飛躍的に延びています。15歳を超えても元気に走り回る姿は珍しくなくなり、20歳を迎える「スーパーご長寿猫」も増えてきました。愛する家族と一日でも長く一緒にいられること。それは、私たち飼い主にとって何よりの喜びです。
一方で、長生きしてくれるからこそ、これまであまり意識してこなかった「老い」の新たな課題とも向き合う必要が出てきました。そのひとつが、猫の認知症――正式には「認知機能不全症候群(CDS)です。
「名前を呼んでも反応が鈍い」「夜中に突然大声で鳴く」「トイレを失敗する」。こうした変化を感じたとき、多くの飼い主さんは「年をとったから仕方ない」「頑固になったのかな」と、老化現象の一部として受け止めがちです。しかし、もしその行動が、脳の病的な変化によって引き起こされる不安や混乱のサインだとしたら、どうでしょうか。
愛猫が最期までその子らしく、穏やかな時間を過ごすためにできることはなにか。今回は、高齢猫の「脳の健康」に焦点を当て、認知症の正体と見逃しやすいサイン、そして私たちにできる具体的なケアについて紹介します。

その行動は「老い」か「病」か? 認知症の正体
猫の認知症は、人間のアルツハイマー病とよく似たメカニズムで進行すると考えられています。脳内の神経細胞が徐々に減少し、「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質が蓄積することで、記憶力や学習能力、空間認識能力といった脳機能が少しずつ低下していく病気です。
海外の研究データによると、この病気は私たちが想像している以上に身近な存在であることがわかっています。
11〜14歳の猫:約28%に認知機能の低下と関連する行動変化が見られる
15歳以上の猫:約50%以上に達するという報告もある
つまり、シニア期を迎えた猫の2頭に1頭が、何らかの形で脳の老化による「生きづらさ」を抱えている可能性があるのです。ただし、猫は不調を隠すのが非常に上手な動物です。さらに、認知症の症状はゆっくりと進行するため、毎日一緒に暮らす家族ほど、微妙な変化に気づきにくいという側面もあります。
今すぐ確認したい「8つの症状サイン」
では、私たちはどのような変化に注意すればよいのでしょうか。獣医学の分野では、認知機能不全の評価に「VISHDAAL(主に猫向け)」や「DISHA / DISHAA(主に犬向け)」といった行動指標が用いられます。これらをもとに、家庭で気づきやすい8つの具体的なサインを整理しました。
最近の愛猫の様子を思い浮かべながら、当てはまるものがないかチェックしてみてください。
①空間認識のズレ(迷子のような行動)
▼こんな様子が見られます
・家のなかで迷子になったように立ち尽くす
・家具の隙間や部屋の隅で動けなくなる
・壁や床を長時間ぼんやり見つめる
もっとも特徴的なのが、長年暮らしているはずの家のなかで方向感覚を失ったような行動です。家具の隙間に入り込んで出られずに鳴いたり、ドアの蝶番側(開かない側)から必死に出ようとしたりする姿が見られます。何もない壁や床を見つめ続ける行動も、空間認識がうまく働かなくなっているサインと考えられます。
②社会的関わりの変化(性格が変わった?)
▼こんな変化が起こります
・飼い主や同居猫への関心が薄れる
・撫でられるのを極端に嫌がる、怒りっぽくなる
・逆に依存が強まり、後を追って離れなくなる
飼い主や同居動物との距離感に変化が現れます。以前は玄関まで迎えに来ていたのに無関心になったり、スキンシップを嫌がる一方で、不安感から飼い主への依存が強まり、つねにそばにいようとするケースもあります。性格が変わったように感じる背景には、脳の混乱や不安の高まりが隠れています。
③ 睡眠サイクルの乱れ(昼夜逆転)
▼注意したいポイント
・日中ほとんど起きずに眠り続ける
・夜になると落ち着かず徘徊する
猫はもともと夜行性ですが、認知症が進むと睡眠リズムが大きく乱れます。昼間は深く眠り続け、夜中になると突然目を覚まして家のなかを歩き回るなど、生活リズムが逆転したような状態になることがあります。
④ トイレの失敗・粗相
▼見逃しやすいサイン
・トイレ以外の場所で排泄する
・トイレの外にしてしまう
・寝床や食事場所の近くで排泄する
清潔好きな猫にとって、トイレ以外での排泄は大きな変化です。トイレの場所や使い方がわからなくなったかのように、間違った場所で排泄してしまうことがあります。これは「わざと」ではなく、認知機能の低下による混乱の結果です。
⑤活動レベルの変化(無気力・常同行動)
▼こんな行動が増えます
・遊びや食事への反応が鈍くなる
・目的もなく同じ場所を行き来する
お気に入りのおもちゃに興味を示さなくなったり、食事の時間にも反応が乏しくなることがあります。一方で、同じルートを行ったり来たりする「常同行動」が見られることもあり、これは脳の情報処理がうまくいかなくなっているサインのひとつです。
⑥過剰な発声(夜鳴き)
▼飼い主を悩ませやすい症状
・夜中に大きな声で鳴き続ける
・不安や恐怖を含んだ声になる
真夜中に、悲痛な声で鳴き続けるケースは珍しくありません。これは「自分がどこにいるかわからない」「暗くて不安」といった混乱や恐怖心の表れであることが多く、単なる要求鳴きとは性質が異なります。
⑦グルーミング(毛づくろい)の減少
▼生活の質に影響する変化
・毛づくろいをしなくなる
・毛並みの乱れやフケが目立つ
・爪とぎをせず、巻き爪になる
身だしなみを整える意欲や手順を忘れてしまうことで、グルーミングの頻度が減ります。その結果、被毛の状態が悪化したり、爪のトラブルにつながることもあります。
⑧不安・学習能力の低下
▼こんな様子に注意
・些細な変化に極端に怯える
・以前覚えた行動を忘れる
・食事をした直後に再び催促する
脳の機能が低下すると、これまで当たり前にできていたことができなくなります。その積み重ねが自信の喪失や強い不安につながり、落ち着きのない行動として現れます。
決めつける前の「除外診断」の重要性
ここで、非常に重要な注意点があります。これらのサインが見られたからといって、すぐに「認知症だ」と自己判断そてはいけないということです。なぜなら、高齢の猫に見られる行動変化の多くは、認知症以外の身体的な病気が原因である可能性が高いからです。
たとえば、以下のような病気が隠れているケースが多々あります。
【トイレの失敗】
認知症と思われがちですが、慢性腎臓病による多尿や膀胱炎、糖尿病といった内臓疾患が原因でトイレが間に合わなくなっている可能性があります。
【夜鳴き・攻撃性】
甲状腺機能亢進症や高血圧症、あるいは脳腫瘍によるイライラや痛みが原因で、性格が変わったように見えることがあります。
【動かない・グルーミング不足】
じつは「変形性関節症(関節炎)」で、身体が痛くて動けないだけかもしれません。高齢猫の多くが関節に問題を抱えていますが、猫は痛みを隠す習性があるため、単なる老化や認知症と間違われやすいのです。
獣医師は、血液検査や尿検査、血圧測定などを通じて、こうした病気をひとつずつ除外したうえで、初めて認知症という診断を下します。「年だから仕方ない」と諦める前に、まずは動物病院で身体の状態をしっかり確認することが、もっとも重要な第一歩です。

穏やかな暮らしを守るための「3つのケア術」
もし、愛猫が認知症と診断されたとしても、悲観することはありません。現代の獣医療では、環境を整え、適切な刺激を与えることで進行を遅らせ、生活の質(QOL)を維持することは十分に可能です。今日から実践できる、脳と心に優しい生活術をご紹介します。
環境は「変えず」に「わかりやすく」
認知機能が低下した猫にとって、環境の変化は大きなストレスとなり、混乱を招きます。家具の配置換えは混乱を招くため、できるだけ避けます。
そのうえで、生活のバリアフリー化を進めます。足腰が弱り、視力も低下している彼らのために、トイレや水飲み場、ベッドなどの生活必需品を、活動範囲の狭いエリアにまとめて配置してください。また、夜間は足元灯や常夜灯を活用して部屋を完全な暗闇にしないことも、夜鳴きの軽減や徘徊時の怪我防止に役立ちます。
脳への「優しい刺激」を取り入れる
脳を使わなくなると、機能低下は加速します。無理のない範囲で、日々の生活に「適度な刺激」を取り入れましょう。
効果的なのが「食」を通じた脳トレです。おやつやドライフードを、転がすと出てくる知育玩具(フードパズル)に入れて与えてみてください。「どうすれば食べられるか?」と頭を使って食事を得るプロセスは、野生の本能を刺激し、脳のよい運動になります。また、窓辺に安全なスペースをつくり、外の景色や鳥の動きを観察させることも素晴らしい刺激です。日光を浴びることは体内時計を整え、昼夜逆転の改善にもつながります。
「栄養」で脳細胞を守る
毎日の食事も、脳の健康を守るための強力な味方になります。最新の栄養学では、抗酸化成分(ビタミンE・C、βカロテンなど)や、フィッシュオイルに含まれるオメガ3脂肪酸(DHA/EPA)が、脳の神経細胞を酸化ストレスから守り、機能をサポートすることがわかってきています。
また、脳のエネルギー源として効率よく利用される「MCTオイル(中鎖脂肪酸)」も注目されています。現在は、こうした成分があらかじめ配合されたシニア用の療法食も多く販売されています。サプリメントを取り入れる際は、必ずかかりつけの獣医師に相談し、愛猫の体質や持病に合ったものを選んであげてください。
飼い主である「あなた」自身の心を大切に
認知症の猫との暮らしは、睡眠不足や介護の負担など、決して楽なものではありません。どうか、一人で抱え込まず、限界を感じたら獣医師に相談してください。必要に応じて抗不安薬や睡眠をサポートする治療が、猫と飼い主の双方を助けてくれることは多々あります。
また、猫が粗相をしたり、夜鳴きをしても、決して叱らないであげてください。それは彼らのワガママではなく、病気がそうさせているのです。叱っても猫は混乱するだけで、症状が悪化することさえあります。「病気のせいだ」と割り切る心の余裕を持つことが、結果としてお互いの穏やかな関係を守ることにつながります。
まとめ
愛猫が認知症になること。それは、これまで積み重ねてきた思い出が消えてしまうようで、とても寂しく、辛いことかもしれません。 しかし、たとえ名前への反応が鈍くなっても、トイレを失敗するようになっても、彼らがあなたを信頼し、愛している事実に変わりはありません。
「老い」を否定するのではなく、変化していく愛猫の状態に合わせて、私たちが関わり方をアップデートしていくこと。それこそが、最期まで愛猫の尊厳を守り、感謝を伝える最大の愛情表現ではないでしょうか。
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その行動、年のせいじゃないかも? 猫の認知症「8つの症状サイン」とケア
