猫は人間や犬とは異なり、特有の栄養要求を持つ「完全肉食動物」です。体の構造や消化器系、代謝機能は、動物性の肉や内臓から栄養を効率よく吸収するように進化してきました。
特に、猫はタウリンやビタミンAといった一部の必須栄養素を体内でほとんど合成できません。これらの栄養素を日々の食事から確実に摂取する必要があり、不足すれば健康被害が生じます。
こうした背景から、猫に人間向けの食事や「完全菜食主義」といった流行を安易に適用することは大きなリスクを伴います。特に手づくり食を検討する際には、獣医師の指導と正しい栄養知識が欠かせません。

猫の健康を支える主要栄養素
タンパク質と必須アミノ酸
タンパク質は、猫の筋肉や骨の成長・維持に不可欠な栄養素であると同時に、主要なエネルギー源でもあります。猫は、特定の必須アミノ酸を体内で合成できないため、動物性タンパク質からの摂取が必要です。
重要なのがアルギニンとタウリンです。アルギニン不足は高アンモニア血症を引き起こし、命に関わることもあります。タウリンの欠乏は失明や心疾患のリスクを高めます。これらは動物性タンパク質に豊富に含まれており、植物性食品にはほとんど含まれていません。
また、タンパク質は量だけでなく「質」も重要です。アミノ酸スコアの高いフードを選ぶことが、健康維持において非常に重要です。動物性由来で、かつ必須アミノ酸のバランスがとれた高品質のタンパク質が求められます。
脂質と必須脂肪酸
脂質は、猫にとってタンパク質と並ぶ重要なエネルギー源です。特にオメガ-3脂肪酸(EPA・DHA)やオメガ-6脂肪酸などの必須脂肪酸は、皮膚・被毛の健康、脳機能、炎症の抑制などに役立ちます。
人間は植物油からもこれらを摂取できますが、猫は動物性脂肪からの吸収効率が高く、肉食に特化した身体構造を反映しています。フードを選ぶ際は、脂質の「含有量」だけでなく、その「由来」にも注目する必要があります。
炭水化物
本来、猫派炭水化物の摂取をあまり必要としない動物です。主にタンパク質や脂質をエネルギー源とするため、炭水化物の過剰摂取は肥満や糖尿病のリスクを高める要因になります。
一方で、授乳期や成長期などエネルギー需要が高い時期には、炭水化物の適切な摂取が助けになることもあります。過度な制限は、タンパク質の過剰摂取を招き、腎臓に負担をかける可能性もあるため、年齢や体調に応じた調整が必要です。
近年、注目される「グレインフリー」フードは、穀物アレルギー対策や消化負担の軽減という利点がありますが、代替成分の影響で高タンパク質となりやすく、腎臓や肝臓に負担がかかるリスクもあります。猫の状態に応じて慎重に選びましょう。
ビタミンとミネラル
猫にとってビタミンAやD、E、B群、カルシウム、リン、マグネシウムなどの微量栄養素は不可欠です。特に猫はビタミンAを体内で合成できず、動物性食品からの摂取が必須となります。
ミネラルはバランスも重要で、カルシウムとリンの比率(1:1.2〜1.5)が崩れると骨や歯の健康に影響します。過剰摂取・不足どちらも健康障害を引き起こすため、サプリメントの追加は必ず動物栄養学の専門家に相談しましょう。
水分摂取の重要性
猫は水をあまり飲まない習性がありますが、水分摂取が不足すると尿が濃くなり、尿路結石を引き起こす可能性があります。特にストルバイト結石やシュウ酸カルシウム結石は、水分不足が大きな原因です。
水分摂取量を増やす方法は単一ではなく、ウェットフードの利用、水飲み場の工夫、環境ストレスの軽減、適度な運動など、多角的なアプローチが効果的です。これは、飼い主が愛猫の習慣や性格、生活環境に合わせて柔軟に対応することの重要性を示唆しています。尿路結石は一度発症すると再発しやすい疾患であるため、日頃からの予防策が非常に重要です。
☞ ウェットフードの活用
☞ 水飲み場の環境改善
☞ 猫用スープやぬるま湯でのドライフードふやかし
☞ 環境ストレスの軽減や適度な運動
キャットフードの種類と選び方
愛猫の健康を維持するためには、適切なキャットフードを選ぶことが非常に重要です。様々な種類のフードがある中で、その特性を理解し、愛猫に合ったものを選ぶことが求められます。
総合栄養食
「総合栄養食」とは、水と一緒に与えることで必要な栄養素をすべて補えるフードを指します。AAFCO(全米飼料検査官協会)などの基準を満たした製品が多く流通していますが、「表示=品質保証」ではない点に注意が必要です。原材料の質やメーカーの信頼性もチェックしましょう。
ドライフードとウェットフードの特性
キャットフードには、主にドライフードとウェットフードの2種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。愛猫の健康状態、年齢、嗜好性、飼い主のライフスタイルに合わせて、最適な選択をすることが重要です。
療法食と特定目的食
療法食は、腎臓病や尿路疾患、糖尿病など特定の病気に対応する食事で、必ず獣医師の診断と指導のもとで使用する必要があります。自己判断での使用や中断はリスクが高く、症状の悪化を招く恐れがあります。療法食と機能性フードは異なるため、混同しないようにしましょう。
【グレインフリー、ヒューマングレードの表記】
ペットフードには、「グレインフリー」や「ヒューマングレード」といった表示を目にすることが多いです。グレインフリー」は穀物不使用を意味し、穀物アレルギーがある猫に有効です。しかし、代替成分により高タンパク化し、腎・肝臓に負担をかける可能性もあるため注意が必要です。
「ヒューマングレード」は人間が食べられる基準の食材を使っているという表示ですが、法的定義が曖昧でメーカー間に差があります。信頼性や安全性は必ずしも保証されるわけではありません。
これらの表示は、飼い主の関心を引きやすい一方で、その実態を理解せずに盲信すると、かえって猫の健康を損なう可能性があります。
フードを選ぶ際は、流行や目を引く宣伝文句に惑わされず、猫の生物学的特性、ライフステージ、個体差、「総合栄養食」としての栄養バランスが満たされているか、という本質的な価値に立ち返ることが重要です。

ライフステージ別栄養管理
猫の栄養要求はライフステージによって大きく変化します。それぞれの時期に合わせた適切な栄養管理が、愛猫の健康と長寿に繋がります。
子猫期
子猫は生後12カ月齢までの急速な成長期にあり、成猫と比較してはるかに高いエネルギーと栄養素を必要とします。この時期の食事は、筋肉や骨、臓器の健全な発達を支えるために、高タンパク質・高脂質・高カロリーなものが推奨されます。
栄養不足が起こると、骨や筋肉の成長に悪影響を及ぼすだけでなく、免疫力や臓器の発達にも支障をきたします。結果として、生涯にわたる健康状態に悪影響を与える可能性があるため、この時期の栄養管理は特に慎重かつ徹底して行う必要があります。
子猫は胃が小さく、顎の力もまだ弱いため、一度に多くの量を食べきれないことがあります。そのため、小粒で、少ない量でも効率的に栄養とエネルギーを摂取できる、嗜好性が高く消化しやすいフードを選ぶことが大切です。
「子猫用」と明記された総合栄養食が基本となりますが、グレインフリーで高タンパク質なフードも選択肢のひとつです。ただし、消化のしやすさや粒のサイズも考慮して選びましょう。
成猫期
成猫は、活動量や避妊・去勢の有無によって、必要とするエネルギー量が大きく異なります。肥満や低体重を防ぎ、健康的な体型を維持するためには、それぞれのライフスタイルに応じた適切なカロリーコントロールが不可欠です。
1日のエネルギー要求量を計算することで、より科学的な根拠に基づいた食事管理が可能になります。
【安静時エネルギー要求量(RER)】
猫が安静時に必要とするエネルギー量で、以下の計算式でもとめられます。
「30×体重(㎏)+70㎉」
【1日あたりのエネルギー要求量(DER)】
RERに、猫のライフステージや活動量に応じた「係数」を掛けて算出します。例えば、避妊・去勢済みの成猫では係数1.2~1.4が目安となります。
DERが分かれば、以下の計算式で1日の適正な給与量(g)を算出できます。
1日の食事量(g)=DER÷代謝エネルギー(㎉)×100
【1日あたりのエネルギー要求量(DER)】
RERに、猫のライフステージや活動量に応じた「係数」を掛けて算出します。例えば、避妊・去勢済みの成猫では係数1.2~1.4が目安となります。
DERが分かれば、以下の計算式で1日の適正な給与量(g)を算出できます。
1日の食事量(g)=DER÷代謝エネルギー(㎉)×100
このようなRER/DERの計算は、肥満や低体重といった健康リスクの予防・改善の出発点となります。計算方法を飼い主が理解し実践することで、愛猫の健康寿命を延ばす可能性が高まります。
ただし、数値はあくまで目安であり、猫の体格や年齢、活動量には個体差があります。実際には、食事後の体重変化や体型(ボディコンディションスコア:BCS)、日常の様子を観察しながら柔軟に調整していくことが重要です。
シニア猫期
7歳を過ぎた猫はシニア期に入り、加齢に伴い消化機能の低下や腎臓病、関節炎、糖尿病などの疾患リスクが高まります。この時期の食事では、消化しやすく、リンやナトリウムを調整して腎臓の健康に配慮したフードや、関節の健康維持に役立つグルコサミンやコラーゲンを配合したフードが推奨されます。
シニア期に多く見られる病気と、その対策には次のような関係があります。
【腎臓病】
機能が衰えると、老廃物の排泄や水分調節が難しくなり、食欲不振・嘔吐・口臭などの症状が現れます。症状が出る頃には機能している腎臓が25%以下になっている場合もあるため、尿が薄くなる、水をよく飲むといった早期変化に気づくことが重要です。早期発見・早期治療が鍵となり、リンやナトリウムを調整した療法食が治療の柱になります。
【関節炎】
シニア猫の6~9割が関節炎を抱えているとされます。痛みにより高い所へ上らなくなる、グルーミングや爪とぎが減る、気性が荒くなるなどの変化が見られます。体重過剰は関節への負担を増やすため、体重管理が極めて重要です。
【糖尿病】
肥満猫に多く見られ、水を大量に飲む、尿量の増加、体重減少などの症状が現れます。治療はインスリン注射とともに、適切な食事管理が重要です。
シニア猫の栄養管理は、加齢による身体機能の低下に応じた、予防的・治療的アプローチが欠かせません。これらの疾患リスクを考慮したフード選びと、定期的な健康チェックが、シニア猫のQOL(生活の質)を保つうえで重要です。
まとめ
猫の栄養管理は、「完全肉食動物」であるという本質を理解することが出発点です。必要な栄養素の種類やバランスは、人間や犬とは根本的に異なります。総合栄養食を基本に、ライフステージや健康状態に合わせて柔軟に対応する姿勢が重要です。とくに水分摂取の工夫や、腎臓・関節・消化機能など加齢に伴う変化への予防的ケアは、健康寿命を延ばす鍵となります。
飼い主は流行やイメージにとらわれず、根拠ある情報をもとにフードを選択すること。そして、不安がある場合は必ず動物栄養学の専門家に相談することが、愛猫の健やかな生活を支える最も確実な方法です。
元の投稿: 犬や猫とハッピーに暮らすための情報と最新ペットニュース - ペトハピ [Pet×Happy]
これだけは知っておきたい! 猫の栄養とフード選びの基礎知識
