先日、海外で糖尿病患者が、遺伝子を編集した細胞を移植し、自身の体内でインスリンをつくれるようになったというニュースが世界を駆け巡りました。この画期的な成果は、長年インスリン注射と向き合ってきた多くの患者とその家族に、大きな希望を与えています。そして、それは人間だけの話にとどまらないかもしれません。
愛犬や愛猫が糖尿病と診断され、毎日インスリン注射を続けている飼い主さんにとって、このニュースは、「もしかしたら、うちの子も…」という一筋の光に映ったことでしょう。決まった時間の注射、厳密な食事管理、血糖値変動への不安、そして高額な治療費。愛するペットのためとはいえ、その負担は決して軽いものではありません。
今回は、この最新治療が将来的に犬や猫の糖尿病にどのような可能性をもたらすのか、事実に基づきつつも希望を込めて紹介します。

まず、この治療法の概要を説明します。糖尿病は、血糖値を下げるホルモン「インスリン」を分泌する膵臓の「膵島(すいとう)」細胞が機能しなくなることで発症します。今回の治療は、健康なドナーから提供された膵島細胞を移植する「細胞移植」の一種です。
これまでの細胞移植における最大の障害は「拒絶反応」でした。私たちの体には、自分以外のものが入ってくると、それを異物とみなして攻撃する免疫システムが備わっています。そのため、他人の細胞を移植すると、この免疫システムが作動してしまい、せっかく移植した細胞が破壊されてしまうのです。これを防ぐために、患者さんは生涯にわたって免疫の働きを抑える「免疫抑制剤」を飲み続ける必要がありました。
今回の治療法の画期的な点は、この拒絶反応の問題を、遺伝子編集技術「CRISPR」を使って解決しようと試みたことです。移植する膵島細胞をあらかじめ加工し、免疫システムに見つからない「ステルス機能」を持たせました。これにより免疫抑制剤を使わずに細胞が体内で生き続け、インスリンをつくり出すことを目指しています。
では、この技術は犬や猫に応用できるのでしょうか。結論からいえば、特に犬の糖尿病に対しては、将来的に非常に有望な治療法となる可能性があります。
犬の糖尿病の多くは人間の1型糖尿病と似ており、自身の免疫が膵島細胞を攻撃・破壊して発症します。原因が免疫による細胞破壊であるため、「免疫から逃れる細胞を補充する」という今回の治療法は、まさに病因に直結するアプローチです。失われた細胞を補い、再び壊されるのを防ぐという理論は、犬の病態に適合します。
一方、猫の糖尿病は少し事情が異なります。猫の糖尿病の多くは人間の2型糖尿病に似ており、主な原因は「インスリン抵抗性」、つまりインスリンが効きにくくなる状態にあります。肥満などが引き金となり、インスリンは分泌されていても、体の細胞がうまく反応できなくなってしまうのです。さらに「アミロイド」という特殊なタンパク質が膵島に沈着し、細胞を物理的に損傷させることも知られています。
そのため、猫の場合は単に新しい細胞を移植しても根本解決にはつながりにくいと考えられます。インスリン抵抗性やアミロイド沈着の環境が改善されなければ、移植細胞も疲弊する恐れがあるからです。実際、猫の糖尿病は早期治療でインスリン注射が不要になる「寛解」に至ることがあり、犬とは根本的に異なる病態を示します。猫への応用には異なる戦略が求められます。
もちろん、この希望に満ちた技術が、すぐに動物病院で受けられるようになるわけではありません。乗り越えるべき壁はいくつも存在します。
まず、研究はまだ初期段階で、人間でも始まったばかりです。長期的な安全性や有効性が確立するまで時間が必要です。また、人間で確立された治療を動物に応用するには、動物での有効性と安全性を検証するための研究、そして国からの承認を得るための複雑な手続きが必要になります。
コストも課題です。遺伝子治療や細胞移植は開発費が莫大で、治療費も高額になる見込みです。多くの飼い主が利用できるには、費用低減が不可欠です。さらに、遺伝子を操作したドナー動物を作出することには、動物福祉の観点から社会的議論が必要です。
これらの課題を考えると、実用化には少なくとも10年~20年といった長い年月がかかるかもしれません。しかし、それでもこのニュースがもたらす意味は大きいでしょう。これまで「生涯にわたる管理」が前提だったペットの糖尿病に対し、初めて「根治」の可能性を現実的に示す技術が登場したのです。
愛する家族であるペットを、毎日の注射やストレスから解放できるかもしれない——。そんな未来を想像させてくれる、この一歩は極めて意義深いものです。今後の研究進展に心から期待したいと思います。
元の投稿: 犬や猫とハッピーに暮らすための情報と最新ペットニュース - ペトハピ [Pet×Happy]
愛犬・愛猫の糖尿病に根治の光? 遺伝子編集を使った最新治療とペット医療への希望
